噛み合わせの違和感から始まるトラブル:関節の軸で噛み合わせを作る歯科治療の重要性
歯科治療に30年以上携わってきた大宮の歯科医師が明かす、日本人が歯を失い、一生、治療のために歯科医院に通い続けている理由。
目次
はじめに:現代の歯科医療の問題点
現代の人々は、忙しく日々の生活に追われています。その中で、食べ物やファッションなど、いわゆる、早い、安い、簡単のファストビジネスが盛んに行われています。このようなファストビジネスの中で、多くの人が、「未来の私」を夢見ることができていることは確かです。しかし、一方、歯科医療も、まるでファッションのように安易な治療や、見た目重視に偏り、本来の役割である「歯の長持ち」、「あごの健康維持」が軽視されています。特に、歯科治療の大原則である「関節の軸と調和した噛み合わせ」を作ることの重要性が認識されず、多くの患者様が、歯の違和感に始まり、歯やあごのトラブルに発展して長く悩まされています。
噛み合わせの基本:関節の軸とは?
関節の軸は、左右の関節を結ぶ仮想の軸です。この下あごの関節の軸は、ドアでいう軸であり回転中心です。
そのため、下あごは、関節を回転中心として閉じたり、噛んだりします。
正しいかみ合わせでは、軸である回転中心の関節は、噛み合わさった時、まったくズレたり、揺さぶられたりしません。
また、ドアの軸のように回転だけして、動かず、正確に、ドアをドア枠へ誘導するように、奥歯の凹凸同士を精密に誘導し、神合わせの奇跡を起こします。また、この関節の軸は、身体の健康(体幹)に重要な軸で、関節が動いて揺さぶられることは、姿勢、肩こり、頭痛、腰痛、首の痛み、首が回らない、お顔のゆがみなど、全身に影響します。
関節の軸でかみ合わせを作る必要性。
関節の軸で噛み合わせを作ることは、ドアが平坦なドア枠に整然と収まることと一緒です。一方、下あごに生えている奥歯の凹凸が、上あごの奥歯の凹凸に、ぶつかることなく収まることは、歯とあごの健康にとって重要です。もし、下図のようにぶつかる奥歯があれば、下あごの歯が滑ってズレます。そして、一体となっている下あごの関節もズレます。すると、ぶつかる奥歯には体重の10倍もの暴力的な力が働き、違和感に始まり、虫歯がないのに歯がしみる痛む、歯ブラシを頑張っているのに歯周病が進行する、歯が突然割れるなどが起こってきます。一方、関節は、ぶつかる奥歯がてこの支点(シーソーの支点)となって、前歯はもっと噛もうとするため、てこ現象(シーソー現象)が生じ、関節は上下に揺さぶられます。すると、関節や下あごに付着している筋肉に炎症が生じ、徐々に顎関節症(口が開かない、開くとき痛い、音が鳴る)に発展していきます。
研究によると、人の10人に9人は、元々、関節の軸でかみ合わせが作られておらず、見た目にもわからない悪い奥歯のかみ合わせがあるといわれています。そのため、私達の多くは、40歳以降に噛み合わせの力のストレスが原因で、歯周病の進行、歯の破折を経験し最終的に歯を失っています。また、悪い噛み合わせが原因で30代、40代で早くも総入れ歯になっている人もいます。さらに、歯磨きや定期検診を真面目に行っている方でも、歯を失ってしまうのはそのためです。そして、現代の歯の予防も、また、患者様任せの歯磨きの観点、ホームケアの評価と援助の観点にしか立っていません。定期検診で行われている内容は、どれも私達が、どれだけ歯磨きを真面目にできていたかの評価と対応であり、噛み合わせの力のコントロールの観点に立ったものではありません。たとえ、歯周病が噛み合わせが原因で進行していたとしても、噛み合わせの治療が行われることはなく、歯磨きの努力が足りないせいにされてしまいます。そして、嚙み合わせの治療を行っていれば、抜かないで済んだ歯の助かるチャンスを摘み取っています。噛み合わせの評価、治療は、歯科医師にしか行うことができないプロフェッショナルケアですが、噛み合わせに対して多くの歯科医師が無関心であるといえます。いずれにしても、関節の軸と調和したかみ合わせを作ることは、あご全体のバランスが保たれ、歯やあごへの負担が最小限に抑えられます。当院の定期健診は、常に、噛み合わせの観点から診査、評価を行っています。
見た目でわからない「最小単位」の悪い噛み合わせ「関節の軸で閉じると、ぶつかる奥歯がある」。歯やあごにトラブルを生じるメカニズム。
関節の軸に調和していない嚙み合わせ「関節の軸で閉じると、ぶつかる奥歯がある」の状態は、噛み合わせの違和感を生じる、見た目でわからない「最小単位」の悪い噛み合わせです。このような状態を放置すると、そのぶつかる奥歯やあごの関節に負担がかかり様々な歯とあごのトラブルに発展します。この歯やあごにトラブルを生じる、メカニズムの動画を供覧いたします。
患者様の習慣的に噛む位置で、最終的な噛み合わせを決定するリスク。
多くの歯科医は、患者様の習慣的に噛む位置で、最終的な噛み合わせを決定してしまいます。
どのように決定しているかというと、「はい、カチカチ噛んで」「高いですか?高くないですか?大丈夫
ですね。」と質問しているのです。これは、患者様の感覚に完全に頼った状態です。「関節の軸」に噛み合わせを作る代わりにこの質問をして、患者様が、噛み合わせの最終的な位置に同意したことを得ているのです。これは、自覚症状がなく、見た目で問題がないように見えても、「関節の軸で閉じると、ぶつかる奥歯があり」、関節の軸をズラしたり、揺さぶっている可能性があるため、将来的な歯とあごのトラブルの原因になる可能性があります。
なぜなら、前述の、人の10人に9人は、この「関節の軸で閉じると、ぶつかる奥歯がある」といわれています。そのため、患者様の習慣的な噛み合わせの位置を信じて歯科治療を進めた場合、暴力的な噛み合わせの力の積み重ねにより、40歳を過ぎて健康を真剣に考え始めた時期に、噛み合わせによる歯周病の進行や、歯の破折により歯を突然失ってしまう可能性があります。ほとんどの歯科治療は、嚙み合わせが原因の歯周病の進行に恐ろしく無頓着であり、その対応がありません。プラークコントロールによる予防が、皆保険制度によってこれだけ普及した現代においても、未だに、私たちの多くは、当たり前のように歯を失い、インプラントや良質の入れ歯を求めて彷徨っています。患者様が、過去に歯やあごのトラブルを経験していたり、長く治らない顎関節症を患っていたり、口元の歯並びをきれいにしたいというきっかけがあれば、現在の患者様の噛み合わせをリセットして、関節の軸と調和した噛み合わせを作るチャンスはあります。
皆様の習慣的に噛む位置に問題がある場合、下あごは、常に緊張していてリラックスできません。
一方、関節の軸と調和している噛み合わせの場合、下あごは、リラックスしていて、自然に、快適に、違和感なく噛めます。
保健治療、インプラント治療、歯科矯正治療の問題点
皆様の歯が、ほとんど残っている場合の各治療の問題点についてお話します。保健治療は、少数歯の虫歯治療が中心であるため、関節の軸に嚙み合わせを作るという状況が、そもそもありません。なぜなら、皆様の嚙み合わせの良し悪しに関わらず、その他の治療しない多くの歯の嚙み合わせを、邪魔しないような詰め物や被せ物を作らなければならないからです。この場合は、本来の関節の軸と調和させるというよりも、治療していないその他大勢の歯の噛み合わせに調和させなければならいことになります。そのため、患者様のこれまで同様の習慣的な噛む位置に最終的な噛み合わせを決定することになります。元々嚙み合わせが良ければ、それを悪化させないように、被せを装着しなければなりません。元々噛み合わせが悪ければ、その悪い噛み合わせがさらに悪化しないように、被せを装着しなければなりません。しかし、関節の軸ではない、習慣的な位置に噛んでいる人でも、被せの装着後、不意に関節の軸で噛める瞬間があります。それは、唾を飲み込んだ瞬間や寝た瞬間などの姿勢の変わる時に、下あごが反射によってニュートラルポジションをとることがあります。このようなことから、「歯科医院で調整したもらった時は、うまく噛めていたのに、家に帰ってきたら被せが高い気がする」という現象が起こるのです。いずれにしても、保険治療で関節の軸に噛み合わせをリセットできるのは、総入れ歯のようなほとんど歯がない人の治療だけです。そのため、保険医療機関では、歯がほとんどある人の嚙み合わせを、関節の軸で検査、評価する項目がそもそもないため、嚙み合わせに不得手ということがあります。また、保険医療機関で行われるインプラント治療も、少数歯の場合は保健治療の延長線上で嚙み合わせが作られると思います。一方、All on 4などは、完全に噛み合わせをリセットできる手技なので、関節の軸と調和したインプラントを装着することは可能です。さて、とりわけ、矯正歯科治療においては、すべての歯を移動しているので噛み合わせを完全にリセットすることができます。そのため、自由に関節の軸と調和した理想の噛み合わせを与えることが可能です。それにも拘わらず、術前、術中、術後を通して、関節の軸を考慮した検査を行わず、最終的な噛み合わせの位置決定も、習慣的に噛む位置で患者様の感覚任せになってしまうのは、大きな損失といえます。矯正歯科治療後の患者様の嚙み合わせが、関節の軸に調和していない嚙み合わせであれば、違和感に始まり、その後の歯やあごのトラブルに発展していく可能性があります。一生に一度の矯正歯科治療が、見た目重視で口元の見え方や、歯並びに特化して、噛み合わせがおざなりになった場合、大きな損失といえます。多くの矯正歯科治療機関があり、マウスピース矯正なども様々な意味合いで手軽にできるとコマーシャルが行われています。しかし、安かろう悪かろうということが、現実としてはあるので、熟慮した上で治療を受ける医療機関を決定して頂きたいと思います。
かみ合わせの調整の重要性と現状。
噛み合わせの調整は、「関節の軸で閉じると、ぶつかる奥歯がある」という「最小単位」の悪い奥歯の嚙み合わせを治療することです。この「最小単位」の悪い奥歯の噛み合わせが、歯の違和感や、それに続く歯やあごのトラブルに発展してしまうからです。この場合、治療を通して、関節の軸を考慮した噛み合わせの診査、検査、評価が必要です。それによって、関節の軸に噛み合わせが調和するためにどの程度の歯を削り調整する必要があるかを予知性を持って調べるためです。噛み合わせの調整は、患者様の健康な歯のエナメル質を数ミリからミクロン単位でピンポイントに削る調整法です。これによって関節の軸に調和してすべての歯が同時に、同じ強さで接触することができるので、将来的な歯やあごのトラブルを予防できます。一般的に、矯正歯科治療のよる歯の移動後は、全体の歯の接触にムラがあり、「関節の軸で閉じると、ぶつかる奥歯がある」状態です。そのため、矯正歯科治療後は、嚙み合わせに違和感を生じないようにするため、その後の歯やあごのトラブルを予防するために噛み合わせの調整は不可欠です。関節の軸に噛み合わせを作ることは、1世紀も前に提唱された歯科学の大原則です。この原則は、歯科治療の本来の目的、「歯の長持ち」「あごの健康維持」を達成するために作られました。この大原則を真剣に実践するには、嚙み合わせに関する非常に高度な知識と技術が必要です。また、お一人の患者様の治療に半日を費やし、じっくりと丁寧に健康な歯に向き合う必要もあります。この正確な噛み合わせの調整を行える歯科医師はわずかであり、時間もかかるため、多くの歯科医師は敬遠しています。また、患者様の習慣的に噛む位置で、自己流に噛み合わせの調整を行う歯科医師も存在します。そのため、日本顎関節学会では、顎関節症の治療に対して安易な噛み合わせの調整を行うことを推奨していません。そして、顎関節症の治療に対しても、対症療法だけを行うことを推奨しています。しかし、長く顎関節症を患い、苦しんでいる患者様はいます。関節の軸で嚙み合わせを作ることは、顎関節症を原因である嚙み合わせから治療できる本幹なのです。長く顎関節症を患っている方にとっては、暗いトンネルの中で治るかどうかわからない、マウスピースを長く使用していたり、お顔のマッサージやお口の開口訓練、上下の歯を接触させないように真剣に取り組んだり、ボトックス注射をしたり、あるいは、もはや歯科を諦めて整体にいくなど本末転倒になっています。ほとんどの歯科医師は、健康な歯を削ることへの抵抗感や、十分な知識と技術のない状態で歯を削り、患者様に顎関節症を引き起こしてしまう恐怖から、「健康な歯も削らないで、時間もかからずに治療できる」という大きなたてまえで、関節の軸と調和した精密な噛み合わせを構築することを放棄しています。
本来あるべき歯科医療:予防と長期的な健康
本来の歯科治療の姿は、「最小単位」の悪い噛み合わせである「関節の軸で閉じると、ぶつかる奥歯がある」を作らない治療でなければなりません。そのため、歯科治療の大原則は、関節の軸と調和して噛み合わさった時、ぶつかる奥歯がなく、関節の軸がズレたり揺さぶられない噛み合わせを作ることです。そして、歯の予防は、噛み合わせによるプロフェッショナルケアで暴力的な噛む力の適切なコントロールと、歯磨きによるホームケアで細菌のプラークコントロールをセットで行い、歯の長持ちとあごの健康維持を目指すべきです。
歯科医院選びのポイント
関節の軸と調和した噛み合わせの構築の重要性を理解し、治療を通して、術前、術中、術後に渡って適切な検査と治療を行ってくれる歯科医院を選ぶことが重要です。その際、フェイスボー、関節の軸で取った噛み合わせの記録、咬合器などを使用し、見えない奥歯の悪い噛み合わせを「見える化」してくれる、じっくり時間をかけて丁寧に治療を行ってくれる歯科医院を選びましょう。また、治療が終了した後も、再度、関節の軸と調和した噛み合わせが構築できたかを検査で検証する、自身の治療を過信していない先生を選びましょう。
まとめ
歯の違和感は放置せず、早めに、噛み合わせに力を入れている歯科医師に相談しましょう。
関節の軸と調和した正しい噛み合わせは、健康な歯とあごを維持するための重要な要素です。
安易な治療や、見た目重視ではなく、長期的な健康を見据えた歯科治療や矯正歯科治療を選びましょう。
この記事の執筆者:福永 矯正歯科・歯科口腔外科 院長:福永秀一
経歴:
1991年 | 明海大学歯学部卒業 |
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1995年 | 明海大学歯学部大学院歯学研究科修了:歯学博士の学位取得 |
1998年 | 日本歯科麻酔学会認定医取得 |
1999年 | 日本口腔外科学会専門医取得 明海大学歯学部口腔外科学第一講座助手 |
2000年 | 明海大学歯学部口腔外科学第一講座講師 |
2002年 | 羽生総合病院口腔外科部長 |
2012年 | IPSG包括歯科医療研究会VIP会員 |
2024年 | 福永 矯正歯科・歯科口腔外科 開設 |